一般財団法人律宗戒学院
明治時代、日本全国で廃仏毀釈の運動が起こったことはよく知られています。その影響は奈良の古寺にも及んでおり、当時、多くの宝物が寺々より姿を消しました。とりわけ聖教の類は、その多くが焼き捨てられ、あるいは反古紙として、土産物の包紙等に使用されてしまったそうです。このような惨状を目の当たりにした、唐招提寺第80世北川智海(きたがわちかい)長老(1864~1946)は、私財を投げ打ち、なかでも戒律に関連した聖教の収集に尽力されました
明治初頭より真言宗の所轄に編入されていた唐招提寺は、明治33年(1900)8月9日、再び律宗としての独立を果たします。同年11月8日、智海長老は律宗独立を記念して、唐招提寺の子院を「戒学院」と名付け、財団の設立を発願されました。その目的は律宗の人法興隆、すなわち、神仏分離令により失われた律宗僧侶の増員・育成や、自身の収集物を含む戒律典籍の保管・研究にあったといいます。
昭和6年(1931)、智海長老は買い戻した唐招提寺の旧地に戒学院の書庫と寮舎を建造し、昭和10年(1935)には、同処に講堂を建立されました。智海長老は、書庫に自身の収集した戒律典籍を寄贈し、寮舎には戒律の研鑽を志す若手僧侶を住まわせました。また、その講堂では、智海長老をはじめとする先達が、若手僧侶のために講義を開いたといいます。
その後、智海長老は戒学院の永続を図るため、これの財団法人化を図られます。そして、昭和16年(1941)11月、当時の文部省より認可を受け、唐招提寺内に「財団法人律宗戒学院」が創設されました。この財団は、平成20年(2008)12月の新公益法人制度移行に伴い、平成26年(2014)3月に内閣府より「一般財団法人律宗戒学院」の認可を受け、その定款を改めました。
一般財団法人律宗戒学院は、事業目的として「律宗教学と仏教文化の保全・振興」を掲げており、その主な事業内容には、次のようなものがあります。
- 「戒律の修得・研究や、律宗における仏教文化の探求を希望する者への教養保護・経済的支援」 ⇨ 唐招提寺に関連する歴史・思想・文化を研究する大学生および大学院生を対象とする、特別奨学金制度を設けています。
- 「仏教文化の振興を目的とする講演会等の実施」 ⇨ 毎年6月6日に開山忌特別講演会を実施しています。
- 「有益な図書等の刊行」 ⇨ 『唐招提寺授戒帳』(2013年)や『覚盛上人御忌記念 唐招提寺の伝統と戒律』(2019年)等の書籍を刊行しています。
調査研究報告
平成31年度
出版物
『覚盛上人御忌記念 唐招提寺の伝統と戒律』PDF
- 北川智海口述・松浦融海筆受・松浦俊海校正「大悲菩薩伝」PDF
- 大谷由香「南山三観と日本律宗」PDF
- 川瀬由照「木造覚盛上人坐像について」PDF
- 佐藤亜聖「唐招提寺西方院所在の證玄和尚五輪塔と出土蔵骨器について」PDF
- 鈴木嘉吉「建築から見る唐招提寺の鎌倉復興」PDF
- 内藤栄「仏舎利三千粒と戒律―鑑真から覚盛へ―」PDF
- 西谷功「南宋仏教からみた鎌倉期戒律復興運動の諸相―「如法」の僧院生活と儀礼実践の視点から―」PDF
- 西山明範「唐招提寺照遠の著作と生涯」PDF
- 船山徹「覚盛願経『梵網経』下巻初探」PDF
- 細川涼一「壬生寺・法金剛院円覚十万人上人導御(唐招提寺中興第四・世長老)伝―その生涯と弘安七年七月の法隆寺舎利盗難事件における西大寺叡尊との接点―」PDF
- 蓑輪顕量「覚盛と俊芿に見る通受と自誓受戒」PDF
- 八木聖弥「円覚上人と壬生大念仏」PDF
- 岡田雅彦「唐招提寺創建時の伽藍について―講堂下層三期遺構を中心に―」PDF
- 眞田尊光「鑑真和上と千手観音」PDF
- 東野治之「古代寺院の僧房と僧侶の持戒生活」PDF
- 吉川聡「唐招提寺宝蔵の「諸人忌日料田畠施入目録」をめぐって」PDF
- 阿部美香「律宗戒学院蔵『記録法蔵』解題と翻刻」PDF
- 大谷由香「唐招提寺蔵『布薩規要記』」PDF
- 西山明範「新大仏寺旧蔵『終南山金玉集』所収論題一覧」PDF
特別奨学生 成果論文
- 近藤花梨(奈良教育大学大学院)「浄土美術と音楽―鶏婁鼓・鼗を持物とする菩薩表現および来迎図を用いた教材開発―」
- 森恵士(龍谷大学大学院)「惟賢撰『天台菩薩戒義記補接鈔』について」
- 不二山あかり(奈良大学大学院)「唐招提寺旧講堂安置の薬師如来立像について」
- 濱村美緒(奈良教育大学理科教育講座研究員)「重要文化財牛皮華鬘残闕 研究成果概要(経過報告)」
平成30年度
特別奨学生 成果論文
- 近藤花梨(奈良教育大学大学院)「迦陵頻伽を配置する飛天光背の比較・検討についてー唐招提寺弥勒仏坐像光背を中心にー」
- 鎌谷涼平(奈良大学大学院)「IPM導入ガイドブック(試作)」
- 島袋花子(奈良大学)「海底出土遺跡物の保存科学的研究」
- 米沢映里奈(奈良大学)「聖武天皇と鑑真」
- 濱村美緒(奈良教育大学大学院)「唐招提寺 重要文化財牛皮華鬘残闕 調査報告書」
- 中橋文(龍谷大学)「僧兵と戒律について」
平成29年度
特別奨学生 成果論文
- 赤津將之(奈良教育大学)「神将像の衣甲・姿勢についてー十二神将の成立に関する一考察と十二神将図像を用いた教材開発ー」
- 赤津將之(奈良教育大学)「奈良県奈良市・唐招提寺蔵松院 薬師如来坐像 十二神将 調査報告書」
- 佐野宏一郎(奈良大学大学院)「唐招提寺凝灰岩製石塔の産地推定と三次元計測技術を用いた仮想復元」
- 薛慧(奈良教育大学)「中学校歴史教科書における鑑真に関する記述の中日比較」
- 萩山琴美(奈良教育大学大学院)「彩色文化財を中心とする科学分析の基礎的研究とモデル分析」
- 羽良朝風(奈良大学大学院)「和歌山・慈尊院の密教法具について」
- 安木由美(奈良大学大学院)「出土琥珀の保存に関する研究」
平成28年度
特別奨学生 成果論文
- 赤津將之(奈良教育大学)「唐招提寺と薬師十二神将信仰について」
- 髙津綾乃(奈良大学大学院)「唐招提寺所蔵「牛革華蔓」に関する研究」
- 安木由美(奈良大学大学院)「出土琥珀の保存処理に用いる溶剤の再検討」